研究概要

研究のきっかけ

思考に関する研究は、一流法律家の思考に触れることから始まりました。

一流法律家の代表格には、山口厚やまぐちあつし氏がいます。山口厚氏は、今の日本において最も優れた刑法学者の一人です。東京大学法学部長を務められた後、現在、最高裁判所で裁判官をなさっています。

私は、実は、山口厚氏に直接教わったことがありません。勝手に、先生として私淑させて頂いています。以下、山口厚氏を「山口先生」と呼ばせて頂きます。

私は、郡山市の安積高校を卒業し、東京大学に入学しました。恥ずかしながら、その頃、自分を頭が良い方の人間であると思い込んでおりました。「井の中の蛙」でした。

大学に入学した後、山口先生が書かれた刑法学の書籍を拝読しました。何度も挑戦しましたが、結局、何が書いてあるのか理解することができませんでした。書かれている文の構造や論の運びについていくことができませんでした。

私は、山口先生の書籍を刑法学の書籍として見ることをやめました。そして、一流法律家の思考力や言語力が表れたものとして捉え直しました。

次の文は、山口先生が書かれたものです。
「刑法は、故意による生命侵害を、殺人罪(刑199条)という単一の犯罪として、処罰している。」
(山口厚『刑法各論 第2版』有斐閣)

初歩的な疑問が2つ立ちます。
1 なぜ、文をこのように区切っているのでしょうか。
2 なぜ、この順序でなければならないのでしょうか。

「私」という経験

思考や言語に関する研究は、そう簡単に進むものではありません。

まず、自分の頭の悪さに、病気を疑い、病院で医師や臨床心理士に検査して頂きました。しかし、知能検査等では、特に異常がありませんでした。私の「症状」は、結局、治すことができませんでした。

分かったことは、「他者は、私の頭の悪さを治すことができない」ということです。私は、私自身の視点から、自らの思考に向き合うことにしました。したがって、とりあえず、自分がどう考えているのかを理解しようとしました。

2つの選択

法律を運用するためには、適用が重要です。適用とは、法律との関係では、ある出来事を条文中の語で言い表すか判別することです。

仮に、法律に「猫を虐待した者は、100万円以下の罰金に処する。」という条文があったとしましょう。この条文を適用することは、(少なくとも)以下の3つを選択することです。
1.問題となっている出来事は、何か。
2.問題となっている動物は、「猫」と言い表すか。
3.問題となっている行為は、「虐待」と言い表すか。

適用においては、2つの選択がなされています。
1.問題となっている出来事は、何か。
2.問題となっている出来事は、条文中の語で言い表すかどうか。

選択とは何か

続く